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暮らしのカタチ ― ナカミチ500 ― >>バックナンバー一覧へ戻る

 ベートーベンの3大ピアノソナタといえば「悲愴」「月光」「熱情」です。楽聖が32のピアノソナタを作曲している事を知ったのは、ノーベル物理学受賞学者の益川敏英博士の書かれた本『益川流「のりしろ」思考』からです。益川さんは「月光」があまり好きでなく長いこと拒否していたのですが、ピアニストの中村紘子さんの一言により、にわかに理解し以後名曲として聴くようになったといいます。

 そこで仲道郁代のCDジャケットを見ると32のピアノソナタ全曲を録音したCDがあることがわかりました。そこでとりあえず1番から3番まで録音された1枚を買い求めました。これから当分ピアノソナタの日々が続きます。しかし今年ももう12月、暮れになるとベートーベン第九があちこちで聞こえはじめます。そういえば昔、五味康祐氏が年末になるたびにバイロイト音楽祭のFM放送を録音していたという話を何かの本で読んだことがあります。五味さんの本で読んだのかもしれません。テレフンケンだったかアンペックスだったかのスタジオ用の大型オープンリールデッキで録音するのですが、何本も10インチのテープを用意し38cm2トラで録音します。おそらく2台のデッキを使用し録音の「切れ目」はダブらせて録音し後でテープを編集されていたのではないでしょうか。そのオープンリール用テープも売っている店はほとんどなくなりました。もちろん機械が売られていないから当然と言えば当然ですが。私が使用しているのはルボックスB77というドイツのオープンリールデッキで19ツートラです。もうかれこれ30年になりますが元気に動いています。カウンター表示が故障で動きませんが性能に不都合がないのでそのままにしています。海外メーカー全てとは言えませんがクォ―ドとかJBLとかこのルボックスなどは何年経っても修理に応じてくれます。修理代は若干高くつくのですがちゃんとパーツを保有していて修理してくれます。クォードなどもう30年近く経つのに修理してくれました。

 昭和50年から60年頃はFM放送をよく聴いたものです。アカイのオープンデッキ。ソニー、テク二クス、ティアックなど魅力的なデッキがありました。FMファンやFMレコパルといった雑誌の番組表を参考にせっせと録音していました。FM大阪だったかNHK FMだったか忘れましたが、はかま満夫の「日曜喫茶室」と言う番組があり、松本清張氏が(僕は、はるみちゃんが好きなんだよ。はるみちゃんの歌きかせてよ)と言っていたのを今でも覚えています。確かアカイのオープンリールデッキ(4トラックオートリバース)で録音し、今もどこかにカセットテープに移して保存してあると思うのですが・・・・。カセットデッキもソニー、パイオニア、ティアックなどが良い製品を出していました。3モーター 3ヘッド クローズドデュアルキャプスタン ワウフラッターなどは懐かしいカタログ用語です。私はソニーの「デンスケ」で幼児であった長男の声を録音したり、親子3人で宝塚遊園地や天王寺動物園へ行った時の実況中継とかの生録用に使っていました。

 偶然と言えば12月9日放送、NHKテレビ「SONGS」は今井美樹さんの特集でしたが、その中で昔彼女のお父さんが経営していた「今井電気」の店内の写真が紹介されていました。なんとその写真にはオープンリールのデッキが2台写り、更にビクターの名機SXV(スピーカー)が映り他にも当時を偲ばせるオーディオ製品が写っていたのです。

 ナカミチは「今井電気」の店内写真時代、知る人ぞ知るカセットデッキメーカーでした。500、700、1000と3シリーズがあり、H君が500を購入するとき日本橋の河口無線に一緒に行った記憶があります。その後グレードアップで700を買うことになりました。700は〈貴婦人〉といった雰囲気で歴史に残る名品です。B&Oの製品に通じる美術工芸品的作品と言っても過言ではありません。私の結婚式披露宴のバックグラウンドミュージックはこのナカミチ700が使われていたように記憶します。義弟のH君が700を手に入れたことで500を我が家で貰い受けることになりました。黒のボディに白の側板が鮮やかです。この500は長らくウチで活躍してくれました。今はもう動かなくなり、すでに引退したアキュフェイズのP300、C200と仲良くオーディオラックで眠っています。

 「時代が変わる」という言葉が実感として感じられるのが今日この頃です。オープンリールデッキは滅び、カセットデッキ、カセットテープ、VHSビデオも風前の灯火です。そのうちCDやDVDも無くなり小さなチップで音楽を聴いたり映画をみたりする日がくるのでしょう。しかしLPレコードをアナログプレーヤーで聴くときの感覚はCDにはないものです。厚みと深みと奥行きがあります。ウーハーが送り出す音圧が違うように感じます。トランジスターアンプもこれ以上ないほど性能が良くなっています。しかし未だに真空管アンプを愛好する多くの人がいるのは、やはり聴く者にとってより音楽性を与える何かがあるのだと考えられます。演奏時間がCDと比べると短くレコード盤をひっくり返したりと手間がかかるのですが、時にはレコード盤に針を落として音楽を聴いてみてください。ゆっくりとした時間が流れます。

 益川敏英さんは、1979年に「仁科賞」という賞を受賞されたときの副賞50万円でオーディオを買われたのですが、だんだん値段の高いものに目がいってしまい結局100万円と予算オーバーになった話が書かれています。オープンリールデッキでは38・4トラを諦め19・4トラを買った話も書かれています。1980年代の堕落はこのオープンリールデッキによるFM放送のクラシック音楽番組の録音から始まったとも書かれています。それでもノーベル物理学賞ですから大したものです。

時間の無駄使いをいっぱいする事が「心の自由」でありそれが『のりしろ』人生だと益川敏英さんは書いておられます。 <藤原>

 

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