帯
ロゴ
ホーム 新規物件 こだわり空間 会社概要 住宅性能保証 最新広告情報 お問合せ
サウスリッジホームの家造り
サウスリッジホームの家造り
こだわりの空間
暮らしのカタチ ― Sさんのこと ― >>バックナンバー一覧へ戻る

 『壺中有天』(こちゅうてんあり)が六中観(りくちゅうかん)の中では最も好きな言葉である。私の書斎は直角三角形で短辺の2壁は天井まで本棚になっている。天井まで4m位あり、司馬遼太郎氏記念館の書棚を模している。中空に3畳ほどのロフトがあり寝ようと思えば寝ることができる。ただし夏場は暑くて無理である。書斎の名は「而今庵」(じこんあん)という。「今」この瞬間という意味で、「今このときを生きる」ことが出来る境地を表現している。この小さな庵が私にとっての「壺中」なのである。

 Sさんは昭和50年代後半に出会った人である。不動産屋に似合わずプレジデントとか日経ビジネスを私に読めと言った。プレジデント誌ではそのころ、伊藤肇の「現代の帝王学」とか「人間的魅力の研究」で財界人のエピソードをさかんに取り上げていた。Sさんに言われるずっと前からプレジデント誌は購読していたので、「へえー、不動産業界にも読書人がいるんだなァ」と思ったことを覚えている。Sさんが印象に残っているのは彼が早稲田で、早稲田は私が行きたかった大学であったからかもしれない。それとも不動産業界に早稲田出身がいるのか、という驚きであったかも知れない。私が建売分譲地の現場事務所にいるとSさんがやってきて不動産業界のことや世情のことを論評した。2年間ほどの期間であったが、いつもSさんが私のところやってきて、私が彼の所へ行くことはなかった。Sさんは人を批判する人であった。人を褒めることの少なき人であった。Sさんの悪評が聞こえ始めた頃から何となく疎遠になってしまった。今日に至るまで会えずにいる。

 Sさんの勧めもあって日経ビジネスを購読し始めたのだが、週刊誌なので充分読まないうちに次の号が届く。読みきれない状態が続き、それこそ「ツンドク」状態になってしまった。ついに継続を断念した。較べてプレジデント誌は月刊誌なので暇に任せてよく読んだ。その頃城山三郎氏の「落日燃ゆ」「男子の本懐」とか司馬遼太郎氏の「項羽と劉邦」などを読んでいた。プレジデント誌にも少し食傷気味になっていた頃、日本経済新聞社が出版した「私の履歴書 経済人6」定価3000円に出会った。

 ちなみに六中観とは『死中有活』『苦中有楽』『忙中有閑』『腹中有書』『意中有人』『壺中有天』のことである。安岡正篤(やすおかまさひろ)氏の百朝集のなかの名言である。
『壺中』とは意に満たない俗生活から開放される「別天地」のことである。例えば音楽、芸術、信念、信仰など仕事以外の自分の「時間」と「空間」を持つことによっていかなる逆境からも救われるという説である。城山三郎氏が「無所属の時間」(新潮文庫)といっているのも同じ意味だと思う。

 Sさんは博学で能弁家であったが果たして彼には『壺中』があったのだろうか。『意中』の人はあったのだろうか。<藤原>

 

pagetop
サイトマップ 個人情報保護方針 このサイトについて