「ゲンサン、目の下三寸で丁度ころや。造りにしてくれへんか。部長(私のこと)、めったに取れへん魚やし、取れてもほとんど東京へ行ってしまうんや。今日は運がよかったな。さあ食べや」
と社長は言って冷酒を口に含んだ。
今でもその日のウメイロの姿、色合いははっきり記憶に残っている。変わった名前の魚だなと思い印象に残った。味はどうだったか。少し固めだが、鯛に似て上品な美味しさだったように記憶している。ところで、そのころの私は体重が85キロほどあり肥満していた。体も肥えていたが実は舌のほうも相当「こえ」ていたのである。例えば。
取れたての「カツオのさしみ、たたき、お茶漬け」 天然の「クエの造り、クエ鍋」 「ぶりの砂ずり」天然の「大寒ブリ」 奈良吉野の巨大「マツタケ」と黒門市場の極上天然ふぐの鍋、「ぞうり海老(くつ)」 和歌山潮岬の「あかいか」 「鯨のオノミ・巨大インゴッド造り」「カナダ産マツタケと丸ごとキングサーモン」 等々。
普通めったに口にすることが出来ない美味しいもの三昧の生活で充分舌のほうも鍛えられていたのである。だからその舌が味わった「ウメイロ」旨さの記憶には自信があるのです。
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